○○が無性に食べたい! 食物渇望が起こるのはなぜ?
投稿日: 2022年11月11日
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「○○」が無性に食べたい!という経験は誰もがあるでしょう。では、そんな時、体内ではどんなことが起こっているのでしょうか。
無性に食べたくなるのはナゼ?
何かが無性に食べたいほど渇望しているとき、体内で起こっていることとしてまず考えられるのは、何らかの栄養不足です。たとえば、甘いものが無性に食べたいときは、エネルギー源となる「糖質・たんぱく質・脂質」が不足している、あるいは、ストレスによって抗ストレスホルモンを分泌したくて糖質やアミノ酸を欲している、などと考えられます。また、しょっぱいものが無性に食べたくなるのはミネラルの不足が影響しているのではとも言われています。
ほかにも、氷が食べたいのは鉄分不足、チョコレートが食べたいのはマグネシウム不足、ポテトチップスはカルシウム不足など、さまざまなことが言われていますが、実際にどのようなメカニズムで起こっているのかは、実はまだ解明されていないことがほとんどです。ですから、上に挙げた例は「経験知」のようなものであって、科学的に検証された情報とは言えないようです。
「食物渇望」が起こる理由
何か特定のものを食べないと満たされないという経験は「食物渇望」と呼ばれています。食物渇望は突然起こり、時として我慢できないほど欲求が強くなるという特徴をも持っているので、通常の空腹とは異なる経験だと考えられています。単調な食生活が続くと食物渇望が起こりやすいという報告もあります。
では、どうして食物渇望が起こるかについては、栄養素が体内で不足するという生理学的な根拠だけでなく、経験的な要素も関与していると言われています。たとえば、「無性にお寿司が食べたい」という渇望は、寿司を常食とする日本人か、寿司好きの外国人だけに起こることでしょう。これは、刺激的な食体験が食物渇望をひき起こすのだと考えることができます。
また、食物渇望と薬物依存症には類似性のあることも指摘されています。近年、神経生理学などの分野で依存症に関わるドーパミンなど脳内麻薬の働きが解明されてきたことに関連して、食物渇望の場合にも、脳内の神経伝達物質が関与していると想定されるからです。また、何かを無性に食べたいと思わせるのは、カラダの側だけでなく、食品の側にも要因があります。「おいしい」と感じやすい味覚は「甘味」「塩味」「うまみ」です。これらを引き出す栄養素としては、「糖質」「ナトリウム」「アミノ酸」「脂質」があります。多くの食品にこれらの栄養素は含まれていますが、特に加工食品は「無性に食べたい」と感じやすい食品です。たとえば、ご飯に含まれる糖質のでんぷんは分解されて分子が小さくなるとブドウ糖になり吸収されます。でんぷんを摂取するよりブドウ糖を摂取したときのほうが甘みを感じやすく、吸収も早くなります。ブドウ糖が多く使用されているのは、スナック菓子、清涼飲料水、飴、カップラーメン、菓子パンなどです。
カラダと対話しながら食べることも大切
とにかく「無性に何かが食べたい」というのは、誰にでも起こりうる経験ですが、科学的な解明は今後に期待される現象です。もちろん、おいしいものや食べたいと思うものを食べることは悪いことではありません。だからといって、空腹感や満腹感といったカラダからの要求なしに食べてしまうと、栄養バランスの偏りが起こって肥満などにつながり健康を害してしまいます。ですから、食物渇望についてはいわば欲望のままに食べてしまうのではなく、カラダと対話しながら食事できるとよいと思います。
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社Mocosuku社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン