介護施設で働く看護師に多い悩みとは
投稿日: 2019年02月06日
最終更新日: 2023年11月27日
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執筆:赤尾 治子(看護師・認知症ライフパートナー3級)
医療監修:株式会社とらうべ
介護施設の利用者が抱える不調や疾病は、年々重度化している傾向が見られます。
それに伴い医療的なケアへのニーズも高まっており、介護現場で看護職が担う役割は今後ますます重要になってきます。
しかしながら、介護現場では看護師の配置が一人だけという施設も少なくありません。
そこで今回は、介護施設で働く看護師の悩みにスポットをあて、多職種連携の難しさを見ていきます。
悩んでいる方々にとって、少しでも改善策を見出すきっかけになれば幸いです。
このページの目次
病院とはちょっと違う?「福祉」を軸にした看護
介護施設では介護職が中心となり業務が遂行されています。
一般的に職場で看護師が占める割合は少なく、一人だけという施設もままあります。
昨今は質の高い介護福祉サービスを安全に提供するために、看護師も介護職など多くの職種と連携・協働してケアの提供に貢献するよう求められています。
よって、看護職と介護職などがお互いに役割を理解し、円滑に連携して事に当たる必要があります。
しかし、看護職と介護職とでは依って立つ基盤が異なります。
病院で教育を受けることの多い看護師は、「医療」の考え方をベースとするケアを習得してきています。
これに対して介護施設では、「福祉」の考え方に基づいてさまざまな業務が行われます。
そのため、病院で「患者」に対して行ってきた看護とは別の、介護施設ならではの「利用者」への看護が期待されているのです。
即ち、病院では病気やけがの治療を大きな目的として看護業務を行いますが、介護施設ではバイタルチェックやリハビリなど、日常生活での健康管理に主眼を置き、利用者が生き生きと暮らせるように支援することが目指されています。
このような側面から、病院のやり方に慣れていると、介護施設での処し方に戸惑うことも多いでしょう。
病院での方法による手当ての仕方が、周囲からすると「何をやっているの?」と疑問に感じられるような事態にもなりかねません。
同じ看護でも、医療で行われる看護と介護(福祉)で行われる看護は意味合いが違いますので、最初はその点で迷いや悩みが出てくると推察します。
日本看護協会では、看護と介護のよりよい連携を求めて特別委員会が設けられ、連携推進についての検討が行われました。
連携の基盤となる情報を共有するための「多職種情報共有シート」や、介護施設で働く看護職のための看護実践ガイドが作成・刊行されています。
参考にしてみるとよいでしょう。
介護士 VS 看護師!? 人間関係にまつわる悩み
世の中のどのような職場も、その職種特有の悩みを抱えていると思います。
それは病院勤務でも言えることで、介護施設の場合も例外ではありません。
介護施設で勤務する看護師は少人数ですから、悩みを相談する相手や機会が少ないという点も負担のひとつです。
病院は看護師が沢山いるので、なかには気の合わない人もいるでしょう。
とはいえ、同じ看護師同士で気の合う人と相談したり話したりできるのは、業務を続けるうえで随分と助けになるものです。
一方介護施設は、施設によっては看護師は一人ですので、同じ立場で苦労を分かち合うようなことは難しいのが実情です。
これが看護師にストレスを感じさせる要因にもなるようです。
また、よく耳にするのは人間関係の悩みです。
介護施設で働く看護師の悩みの上位には、介護士との関係性が挙げられています。
たとえば、「介護士が指示に従ってくれない」「看護師がするべき医療行為をヘルパーがやっている」「介護士対看護師という険悪なムードが漂っている」などの声があるようです。
病院では同じ看護師同士間における人間関係の悩みが多かったと思いますが、介護施設では異業種間の考え方や意見の食い違いによる人間関係に悩みが多いと言います。
ときには、介護士と看護師の立場の違いが原因で、業務に対する意見が割れるなどの問題につながるケースも考えられます。
しかしながら、たとえ相談相手となる同じ看護師がいなくても、他職種の人たちと会話を持てたり相談ができていたりすれば、悩みも軽減されるのではないでしょうか。
お互いの職務内容や考え方を理解しようと努め、相手が悩んだり励んだりしていることに共感する姿勢はとても大切です。
看護師に委ねられる難しい判断!
介護施設は医師が常駐していないところも多く、利用者に急変が起こったときの判断は看護師に任されます。
この点も看護師を悩ます一つの要因です。
医師の判断に基づいて行動する病院とは大きく違います。
その際、生命にかかわる判断を迫られるケースも想定されますので、医療職としての責任を重く受け止めながら勤務している人も多いようです。
加えて、そうした重責を抱えて行っている判断や行動が、他職種の人たちの理解を得られない…という悩みも生じてきます。
たとえば、「いちいち指示してうるさい」とか「高給なのに暇そうにしている」などと思われてしまうことや、看護師として危険と判断し対応策を講じようとしても協力してもらえない…といったことも起こるようです。
悩みを解く:介護士の協力なしに、看護師の業務は成り立たない
医療的な知識・技術を持っている看護師は、介護施設にとって貴重な存在のはずです。
たいていの看護師は介護施設で働く前に病院などの勤務を経て、多くの患者の症例を経験してきていますから、介護施設でもそのスキルは武器になります。
とはいえ、介護施設における日々の業務のなかで、看護師にしかできない医療行為に専念する環境を作るために、介護士の協力は欠かせません。
介護士は日々の介護業務を通して、利用者の食事量、水分摂取量、尿量、便の状態、入浴時における全身の皮膚の状態、普段の様子との違いなどを記録しています。
看護師だけの力量では、このような日々の利用者の状態を全て把握することは困難でしょう。
ですから、介護士と連携をとり情報交換を綿密に行って初めて、利用者に対して的確な看護が行えます。
反対に、介護士から看護師への情報が滞ったり連携が取れていなかったりすると、最終的には利用者が不利益を被ってしまいます。
また実際には、介護施設では看護師と介護士との業務が明確に分かれていないことも多く、痰の吸引も研修を受ければ医療職ではなくてもできますので、ますます境界線が不明瞭になっています。
介護施設では利用者への介護が中心ですので、当然介護士の人数が多く看護師は少数派です。
食事介助も、医療処置や日々のケアも、介護士の仕事なくしては行えません。
ここでお互いの意思疎通が円滑でないと、一つひとつのケアがストレスになります。
たとえば、食事介助などは介護士でもできるという自負から、看護師の意見を軽んじるということもよく起こります。
ところが、昨今の介護施設では嚥下障害を持つ高齢者が増加し、誤嚥性肺炎や窒息のリスクも高まっています。
食事の形態やとろみの程度、食事の際の姿勢や首の角度など、医学的な根拠に基づいた介助が必要です。
食べ方や飲み込みの状態を観察して、変化や気づきがあれば、それを申し送って次につなげることが大事になってきます。
ですから、介護施設のケアというものは、介護士と看護師の連携がスムーズにいかなければ成立しないのです。
悩みを解く:医療的な知識を「同僚」にどんどん伝えよう
介護施設の看護師の業務には、健康管理や胃ろう処置、褥瘡処置などの医療ケアの他に、機能訓練指導員として勤務する場合もあります。
これは、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師などと一緒に、リハビリなどの機能訓練に携わる業務です。
実際に行う歩行訓練などのほか、日常生活動作を活用した機能訓練もありますので、その場合は一日の多くを利用者とともに過ごす介護士の補助を得ながら進めます。
関節の状態や腰痛、脱臼や骨粗鬆症などのリスクがあれば介護士に伝えます。
介護士が状態を理解したうえで更衣や移動などを行い、機能訓練という側面も意識しつつ利用者に関われるように誘導することが大事です。
また、医療職として介護士たちに医療的な知識を周知させる業務も大変重要です。
たとえばノロウイルスのような感染症の予防や、実際に感染が起こった際の処置、他の利用者への感染防止の方法などが挙げられます。
これらを正確に伝えないと、ややもすれば介護施設が危機に瀕するような最悪の事態もないとは言えません。
看護職と介護職というのは、同じ人を相手にしていても、考え方ややり方は少しずつ違うものです。
しかしながら、利用者への介護・看護を何よりも優先に考えれば、ヘルパーや介護士との確執や悪いムードは二の次になるのではないでしょうか。
そのためにも、介護士がケアについて感じていることや意見にはしっかりと耳を傾けてください。
そして、医療職として見たときに誤っている点は指摘し、理由をわかりやすく説明して改善につなげましょう。
同じ施設で働く職員の立場から協力できることは協力し、看護師に任せてほしいことはしっかり伝えることがよりよい関係構築の秘訣です。
介護施設で働く看護師に多い悩み:まとめ
- 介護施設で質の高いサービスを提供するために、看護師は他職種と連携・協働する姿勢が求められる
- 看護職は「医療」、介護職は「福祉」の考え方に基づいているため、もともとの立場に違いがある
- 日本看護協会が「多職種情報共有シート」や介護施設での看護実践ガイドなどを出している
- 介護施設では看護師は一人勤務の場合もあり、孤立してしまいやすい
- 介護職など異業種との考え方や意見の食い違いから、対立してしまうこともある
- お互いの職務内容や考え方を理解し、共感しあうことが大切
- 医師が常駐していない施設では、急変の際の判断が看護師に任される
- 看護師の責務について他職種から理解してもらえないこともある
- 介護士との協働なくしては、看護師として医療行為に専念することはできない
- 看護師と介護士の業務が明確に分かれていないことも多いが、医学的な根拠が必要なケースでは看護師としての意見をはっきりと伝える
- 医療的な知識に基づいて、リスクがあれば他職種にも正確に伝えていくことが大切
【参考】日本看護協会編『介護施設の看護実践ガイド』(医学書院 2018年)
<執筆者プロフィール>
赤尾治子(あかお・はるこ)
横浜市大医学部病院に14年間勤務。介護老人保健施設に6年間勤務。株式会社 とらうべ ではお客様相談室特別対応、学校や企業の保健業務、介護施設紹介などの業務を担当
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供